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アーカイブ
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東大アメフト物語
<俺って、ダセえ> 楊暁達(よう・しょうた)が自分自身に落胆したのは、東京大学アメフト部が横浜国立大学との大一番に敗れ、チャレンジマッチと呼ばれる入れ替え戦への進出を逃したあとだった。 横国大戦ではもちろん東大の勝利を願っていた。しかし、勝つための最大の努力をしたかと問われれば、答えはNOだった。どこか人任せになっていたのは、楊が大きな怪我をしていたからだ。 東大3年のその秋 …
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東大アメフト物語
2017年12月3日の横浜国立大学戦は苦しい展開となる。第1クオーターにいきなりタッチダウンを2つ奪われ、ウォリアーズが常にリードを許したまま時間はどんどん過ぎていく。 アメリカンフットボールは、3アウトで攻守交代となる野球と似たところのあるスポーツだ。大きな違いは、野球に3アウトという攻守が入れ替わる明確なタイミングがあるのに対し、アメフトは攻撃側がプレーの開始地点からパスかラ …
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東大アメフト物語
「先輩の夢、かならず私が、実現してみせます」 1年生の川原田美雪がそう宣言してから、3年の月日が流れようとしていた。2年生の秋も、3年生の秋もTOP8に昇格できず、3学年上の森安芽衣に約束していた「日本一」の夢は、もはや川原田の在学中には叶えようがなくなった。しかし、大きな夢そのものが消えたわけではない。日本一の実現を後輩たちに託すためにも、まずは12月3日の横浜国立大学戦に勝ち、 …
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東大アメフト物語
東大アメフト部のヘッドコーチに就任して1年目の森清之は、手応えらしい手応えがほとんどないまま、2017年秋の公式戦を迎えていた。1月の就任当初から優先させてきたのは、より安全にアメフトをプレーするための「ヘッズ・アップ・フットボール」をいかに浸透させていくかであり、そのもっと手前の意識改革でもあったので、試合に勝つための具体論にはなかなか踏み込めないままだった。 森のジレンマは徐 …
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東大アメフト物語
西田成美がアスレチックトレーナーを志すようになったきっかけは、中学時代の部活動だった。所属していたテニス部で顧問をしていた先生が、教え子の部員たちにテーピングを巻く姿、その所作に憧れた。西田は高校でもテニス競技を続けたが、怪我が多く、慢性化してもいた。スポーツは好きなのに、思うようにプレーできない。自分と同じそうした悩みを抱えたアスリートをサポートする仕事に就けないか――。そう …
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東大アメフト物語
春からのオープン戦が6月下旬に終わると、東大アメフト部の活動はいったん止まり、大学の試験もあるので中休みのオフに入る。しかし、2017年夏のそのオフは、早朝7時半からのミーティングが連日続いていた。4年生の焦りがそうさせていた。 「春があんなにボロボロで、それぞれ思っていることをため込んだまま、秋の本番に向かっていいのかという話になりまして」(主務の川原田美雪) いや、それではま …
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東大アメフト物語
東大アメフト部の練習は、基本的には夕方17時から19時頃までの2時間ほどでスケジューリングされている。アフターと呼ばれる自主練をそのまま続けるなら、終わりはたいてい20時頃になる。練習後のミーティングはあえてしない。理由のひとつは通学事情にあると、ヘッドコーチの森清之は打ち明ける。 「片道1時間ぐらい、通学にかけている部員が、けっこういますから」 練習が20時に終わってからミーティン …
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東大アメフト物語
2017年春のオープン戦開始からしばらく経ったその日、主将の遠藤翔はオフェンスコーディネーターの髙木万海と膝詰めで話をしていた。髙木は2008年から11年までウォリアーズの選手だった部のOBで、12年は留年してコーチを務め、13年の東大卒業後は三菱商事で働いていた。商社の仕事をしながらIBMビッグブルーで1シーズンだけプレーすると、14年からウォリアーズに戻り、週末だけの社会人コーチを担ってきた …
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東大アメフト物語
川原田(かわらだ)美雪がスマホの着信履歴に気づいたのは、2限の授業が終わった後だった。折り返し電話をかけると、三沢英生に頼まれた。 「大学の近くに部室を借りたいんだよねぇ。悪いけど、川原田が探してくれる?」 2017年の夏も、もう7月の半ばに近づいていた。川原田は東京大学工学部の4年生で、ウォリアーズでは主務を務めている。 アメフト部は部員が多い。選手はオフェンスとディフェンス …
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東大アメフト物語
新ヘッドコーチに森清之を迎えた2017年のウォリアーズは、例年通り1月下旬に練習を始め、例年通り社会人コーチや、新4年生の幹部たち、さらにはパートリーダーたちが練習を主導した。それまで東大アメフト部と関わりらしい関わりのなかった森は、この部がどのように練習してきたか、内容もペースもわからない。そこで当面は従来のやり方を踏襲し、森は観察に徹しながら、ただちに修正できる部分のアドバイ …
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