TOP8昇格を懸けた秋の公式戦は、2018年9月8日に始まった。事前に分析していた通り、4節までは対戦校との力の差が明らかだった。
○東京大学 42-14 ●東海大学(2017年度の東海大学はBIG8で4位タイ※)
○東京大学 41ー11 ●駒澤大学(2017年度の駒澤大学BIG8で6位※)
○東京大学 40-10 ●専修大学(2017年度の専修大学は2部Bブロック1位◇)
○東京大学 37-0 ●東京学芸大学(2017年度の東京学芸大学はBIG8で最下位の8位※)
※=入れ替え戦に勝利してBIG8残留
◇=入れ替え戦に勝利してBIG8昇格
いずれも危なげない勝利。コンディションをしっかり整えて、ゲームプランを遂行するための準備を怠らず、本番で力を出し切れば、かなりの確率で勝てるだろう。その見込み通りの試合が4つ続いた。
「逆に言うと、ひとつでも負けていたら、そこから先は、話にならなかったでしょう」
ヘッドコーチの森清之はそう振り返る。
公式戦では初めて、初戦の東海大戦でコーディネーターを務めた平賀慎之介は、自分でも意外だった。試合開始まではいくらか緊張していたが、すぐに平常心でコールを出せるようになっていたからだ。
最初の攻撃はあっと言う間にファンブルで終わり、自陣14ヤードという深い位置で、いきなり攻守交代となる大ピンチを迎えた。事前の予想で、東海大戦は僅差の展開もありえると読んでいたので、浮き足立ってもおかしくない場面だったが、オフェンスコーディネーターの平賀はすぐに気持ちを切り替えられていた。
<あれ、冷静だ>
直後の守りでウォリアーズはタッチダウンを許さず、東海大が狙ったフィールドゴールも失敗に終わる。
4連勝という好結果を、ディフェンスコーディネーターの有馬真人は、至って冷静に受け止めていた。
<さすがに大丈夫でしょ>
事前にそう思っていた通り、いずれの試合も序盤戦を見ただけで、確信は揺るぎないものとなっていた。
<1対1でこれだけ勝っているのだから、まあ負けるわけがないよね>
アメフトの面白さのひとつは、裏をかいて相手をだまし、勝利をたぐりよせるというような作戦の妙にある。しかし、フィールド上の11人が、それぞれ1対1で勝ちつづければ、戦略や戦術の優位性など持ち出すまでもない。
逆に言うと、1対1で圧倒されてしまえば、どれだけいい作戦を練り上げていようと、試合の最後まで活かせない。ヒットが弱いままだと、いつまで経っても勝てないと、森に意識改革を促されたのも理由は同じだ。有馬は思った。
<無駄もだいぶなくなってきた>
ヘッドコーチの森が就任1年目から選手たちに求めてきた原則は、単純なことだった。
――自分の責任をしっかり果たせ。
やや極端に別の言い方をすると「味方を助けるな」。
フィールド上の11人それぞれが各自の責任を果たしていけば、味方を助ける必要はなくなる。この、自分の果たすべき役割をしっかり果たせ、という原則が、新体制1年目の2017年は十分浸透しないまま終わってしまった。
みんなで補い合おうとすると、味方がミスしてしまわないかに気を取られ、そのせいで自分がミスしてしまい、今度は自分が心配されてというような、悪循環のループに陥りかねない。有馬は思った。
<今年は、そこが違っている>
各自が自分の責任に集中できれば、できた分だけ無駄は減る。余計な神経を使わずに済み、余計な動きもなくなってくる。それぞれが割り振られた役割をまっとうできれば、パズルのピースは全部埋まって、結果的に補い合える。
※文中敬称略。