2018年春のオープン戦は3勝4敗の負け越しに終わったが、試合ごとに内容を振り返るレビューを通して、秋に向けての課題がはっきり見えてきた。チーム全体が連動しているかと言えば、その精度はまだ低い。しかし、プレーのタイミングや距離感を合わせる練習を後回しにしているので、そこの不足はやむをえない。
主将の楊暁達はむしろ、タックルやブロックの改善を実感できていた。1年前と比べると、チーム全体で強いヒットが出せるようになっている。シーズンの初めからフィジカルの強化に重点を置いてきた、小さな成果に違いない。進んでいる方向は間違っていないはずだ。楊は意識的に、勝った、負けたに一喜一憂せず、客観的に内容を見極めて、進路の正しさを確かめようとしていた。
その一方で、チームが一丸となっているか否かは、楊にもよくわからなかった。同期の4年生だけで、楊を含めて32人いる。チーム全体だと、1年生の選手まで含めれば、ほぼ170人だ。楊は主将として、こうしていこう、ああしていこうと折りに触れて伝えていたが、1対170のコミュニケーションでどこまで伝わっているのか、手応えというものがまるでない。
全体の170人と比べれば、同期は30人そこそこで数も少ないので、「1対多」のコミュニケーションでも伝わっている。伝わっていると思い込んでいた楊に、貴重な助言をくれたのが、前任の主将で2018年はコーチとなっていた遠藤翔だった。
遠藤が悔やんでいたのは、同期の一人ひとりが何を考えているのか、十分には把握できないまま、最後のシーズンを終えてしまっていたことだ。
<一人ひとり?>
楊は同期の顔を思い浮かべた。ヤツらは、俺の話を聞いて、どう思っているのだろうか。4年だけのミーティングなのに、中にはまったく発言しない同期もいる。
ヘッドコーチの森清之には、こう言われていた。
――伝えたいことが、半分でも伝わっていたら、いいほうだと思え。
楊は不安に駆られた。1対30のコミュニケーションだと、伝えたいことが30分の1に薄まっているのではないか。チーム全体だと170分の1……。
チーム一丸どころか、同期一丸にすらなれず、結果も出せなかったら、間違いなく悔いを残す。楊は決めた。
幹部とは日頃から話す機会が多いので、幹部以外の4年生たちと、できれば1対1、せめて1対2で話をしていく。今年勝つために、何をしていくか。自分の決意と要望を伝え、ヤツらの決意と要望を知っておく。
<必要なのは濃い話だ。みんなと濃い話をしなきゃいけない>
※文中敬称略。