「弱い。だから挑むんだ」 東大アメフト部 大学日本一への挑戦 第30話/全66話(予定)

 2018年の春のオープン戦は、明治学院大学を40-0で下した4月22日の初戦を皮切りに、6月23日の防衛大学校戦まで2カ月続いた。

○東京大学 40-0 ●明治学院大学(2018年度の明治学院大は関東2部所属)

●東京大学 24-25 ○国士舘大学(2018年度の国士舘大は関東1部下位のBIG8所属)

●東京大学 14-28 ○京都大学(2018年度の京大は関西1部所属)

○東京大学 28-14 ●中央大学(2018年度の中央大は関東1部上位のTOP8所属)

○東京大学 27-15 ●千葉大学(2018年度の千葉大は関東2部所属)

●東京大学 13-30 ○立教大学(2018年度の立教大は関東1部上位のTOP8所属)

●東京大学 0-29 ○防衛大学校(2018年度の防衛大は関東3部所属)

 日本のアメリカンフットボール界全体が傷を負うことになる問題を、日本大学フェニックスが起こしたのは、ウォリアーズが5月5日の国士舘戦に敗れた翌日だった。日大の選手が、関西学院大学ファイターズとの試合中に反則行為を繰り返し、退場を命じられただけでなく、その背景にあったと推察される、勝利のためなら手段を選ばない“悪しき勝利至上主義”があぶり出されるなど、大きな波紋が広がった。

 社会問題化していくこの出来事は、三沢英生・森清之体制のウォリアーズが先陣を切り変革していこうとしている、日本の大学スポーツのいわば前時代性を象徴するものでもあった。

 想像してほしい。もしも――。

 大学スポーツの第一の目的は人材育成にあり、勝利を追求する最大の理由は、運動部員たちが社会に出てから躍動するためなのだと広く認識されていたとしたら――。悪しき勝利至上主義は鳴りを潜め、そもそもこうした問題自体が起こりえなかったのではないか。

 想像してほしい。もしも――。

 日本の体育会運動部の活動に、大学の正規の教育プログラムであるというステイタスが与えられ、大学当局が責任を持ち、各運動部に正しくガバナンスを効かせていたら――。悪しき勝利至上主義を振りかざす指導者たちは淘汰され、人材育成という本来の目的を追求しやすくなっているのではないか。

 この日大問題が、日本の大学スポーツにいまだ遍在している前時代性を、図らずも暴き出すことになったのだとすれば、一連の出来事には時代を前に進める意味があったに違いない。ウォリアーズのディレクターであり、関東学生アメリカンフットボール連盟で理事を務める関根恒は、一連の出来事をこう振り返る。

「大学スポーツをより健全に、より適正にやっていこうという“大きな流れ”がある中で、その動きを加速させる出来事にもなったのだと思います」

 連日のようにマスメディアが続報を伝えたこの騒動は、アメリカンフットボールの世間的なイメージを著しく損なうものでもあった。テレビのニュース番組やワイドショーに森と三沢が何度も出演したのは、アメフトのイメージダウンを食い止める火消しの役目と、大学スポーツの問題の本質をわかりやすく伝えながら改革の必要性を訴える啓蒙者の役目を、率先して担おうとしていたからだ。

 関根の言う「大きな流れ」には、2018年2月に実現していた「関東学生アメリカンフットボール1部リーグ監督会」の発足も含まれている。監督会が生まれた理由のひとつに危機感がある。日本では少子化が進む一方で、学生の嗜好も細分化していき、スポーツだけでも選択肢は多岐に渡る。まだ差し迫った危機ではないにせよ、日本のアメフトはこれから先細りになっていってもおかしくない。もはや存続すら危ぶまれる状況なのだから、小さな不利益には目をつぶり、共通の利益を追求するべきだ。

 そんな趣旨で大学を横断した連携の強化をめざし、監督会が毎月の会合を始めてから間もなく、奇しくも日大問題が勃発したのだった。

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 2018年5月上旬から急速に広がった日大問題の波紋がようやく消えかける頃、好本一郎が中心となって煮詰めてきたウォリアーズ支援のための法人設立構想は、具体的な仕組みとして可視化できるようになっていた。

 一般社団法人東大ウォリアーズクラブの代表理事は好本が引き受け、理事には三沢とやはりウォリアーズのOBである小笹和洋のふたりが就いた。2000年度卒の小笹は「マーケティング・リクルーティングコーチ」という肩書きで、2018年に入ってからウォリアーズの学生スタッフたちの面倒を見るようになっていた。

 好本と同じく、小笹もまた強力な三沢の援軍となっていく。三沢が2017年の反省を踏まえ、18年に軌道修正を施すきっかけとなったのは、小笹が呈した疑問であり異論でもあった。

※文中敬称略。

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Written by

株式会社EDIMASS 
手嶋 真彦Masahiko TEJIMA

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