EFFICACY
効能書き01
企業理念
言語化の「効能」
こんな症状に…
- 企業理念が形骸化して久しい
- 羅針盤として機能していない
- 日常の業務とリンクしていない
こんな効き目が…
- あらゆる意思決定の羅針盤ができる
- 社内のベクトルが揃い、個々のモチベーションも高まる
- 企業の魅力として人材市場にアピールできる
「普通の」企業理念だから
形骸化してしまう
企業理念がどれだけ重要か――。
パナソニック※の創業者である松下幸之助さんは、ご自身の著作『実践経営哲学』の冒頭に次のように記されています。
私は六十年にわたって事業経営に携わってきた。そして、その体験を通じて感じるのは経営理念というものの大切さである。いいかえれば “この会社は何のために存在しているのか。この経営をどういう目的で、またどのようなやり方で行なっていくのか” という点について、しっかりとした基本の考え方をもつということである。
事業経営においては、たとえば技術力も大事、販売力も大事、資金力も大事、また人も大事といったように大切なものは個々にはいろいろあるが、いちばん根本になるのは、正しい経営理念である。それが根底にあってこそ、人も技術も資金もはじめて真に生かされてくるし、また一面それらはそうした正しい経営理念のあるところから生まれてきやすいともいえる。
ちなみに「企業理念」を、松下幸之助さんは「経営理念」と書き表しておられますが、ほかにも呼び方は「社是」「社訓」など少なくありません。
ここでは「企業理念」という表現で統一していきます。
さて、聞こえてくるのは「わかっている」という声です。企業理念が大切なのは、よくわかっている。
わかっているけど、お題目になりやすいではないか、という企業理念への懐疑です。
お題目とは、口先で唱えるだけで、実行の伴わない主張です。
遅かれ早かれお題目と化し、形骸化してしまうのが普通の企業理念――。
たしかに、その通りでしょう。形骸化して久しい「普通」の企業理念は、この世にごまんとあるはずです。
だからこそと、わたしたちは考えます。
形骸化しにくい「正しい企業理念」を、どんどん言語化していきたいと。
当初は家族経営だった「松下電気器具製作所」が、
やがて世界に冠たる総合エレクトロニクスメーカーへと大きく成長を遂げたのは、
「いちばん根本に」正しい企業理念を持っていたからだ――。
だとすれば、正しい企業理念を言語化する意義は小さなものではないはずです。
わたしたちが提供しているのは「ESSENTIAL FORCE言語化」です。
ここでも思考を「本質」まで掘り下げましょう。
普通の企業理念ではない、正しい企業理念、優れた企業理念とはどのような機能を持ち、どのように作用していくものなのでしょうか。
正式な社名は「パナソニック ホールディングス株式会社」。
「優れた企業理念」は
動機や誇りになる
優れた企業理念は「羅針盤」のように機能します。
磁石の南北を指す特性を利用して方位を測定する、状況次第では生死を左右する道具が羅針盤です。
馴染みがあるのはコンパスという呼び名のほうかもしれません。
想像してみてください。羅針盤を備えていない航空機に、あなたは搭乗したいですか?
企業のコックピットも同じでしょう。機能している羅針盤を持たない企業に、高度を高く上げる飛行は困難です。
優れた企業理念は「方向付け」の機能を発揮します。
経営者を含めた従業員一人ひとりが判断や行動に迷うとき、企業理念が方位を測定する羅針盤となり、意思決定を助けてくれるのです。
同じ羅針盤を共有しているのですから、社内のベクトルは必然的に揃います。
ベクトルの揃った企業と、バラバラな企業のどちらが力強く飛行していくか、言うまでもありません。
その一方で優れた企業理念は「動機付け」の作用ももたらします。
人というのは「なぜ」を求めたがる生き物です。
「なぜ」「何のために」この会社で働いているのか?
松下幸之助さんの「この会社は何のために存在しているのか」と、従業員一人ひとりの「なぜ、この会社で働きたいか」が重なり合えば、
喜んで、全力を尽くして働く、強い動機となるでしょう。
羅針盤として機能していて、心から共感できる優れた企業理念は、従業員の誇りにもなるはずです。
本質とは、それをそれとして成り立たせている独自の性質です。
優れた企業理念の本質は、従業員のモチベーションを大きく高める作用や、正しい方向へと力強く導いていく機能にあります。
羅針盤としての
機能を高める「構造」
さて、口先で唱えるだけで実行の伴わない主張が、お題目です。
企業理念がお題目に陥りがちなのは、構造に問題があるからです。
優れた企業理念の多くは、「企業の存在目的」「企業の使命」「判断や行動の原則」が緊密に繋がった構造を持っているはずです。
ここでは3層構造の企業理念をイメージしてください。
1層目は企業の存在目的です。
松下幸之助さんの「この会社は何のために存在しているのか」です。
何のために?
問いの角度を少し変えて「この会社はなぜ存在できているのか?」と、問うてみてもいいはずです。
答えは、どの会社も同じでしょう。
世のため、人のためになっているから、存在できている。
真っ当な企業が掲げる「何のために」は世のため、人のため、煎じ詰めれば「より良い社会のために」となるはずです。
社外に向けては「より良い社会やより良い世界のために」。
社内に向けては「より良い暮らしのために」です。
2層目は企業の使命です。
使命とは、達成すべき独自の目標です。
優れた企業理念は、1層目と2層目が密接に連関した構造を持っています。
独自の目標を達成することが「より良い社会やより良い世界」に繋がっていく。
結果として「より良い暮らし」を実現できるといったロジックが、企業の目標と企業の存在目的を繋ぐジョイントです。
未来志向も求められます。
「より良い明日のために」「より良い未来のために」をはっきりと志向する企業でなければ、存在自体が許されにくい時代を迎えているはずです。
人類の持続可能ではなかった消費行動のせいで、地球はすでに壊れかけていると大きな警鐘が鳴らされています。
3層目は判断や行動の原則です。
松下幸之助さんの「どのようなやり方で」です。
どのようなやり方で、独自の目標を達成していくか。
2層目の目標達成に繋がる原則や原点を示します。
形骸化しにくい企業理念は、3層目が2層目に、2層目が1層目にしっかりジョイントされた構造を持っています。
しっかりジョイントされているとは、強固なロジックで繋がっている状態です。
強固にジョイントされた企業理念は、羅針盤としての機能が高い企業理念です。
がっちりと3層全てが繋がっていて、総体として機能する羅針盤となっています。
そこが形骸化しやすい普通の企業理念との大きな違いです。
どう判断すべきか、どう行動すべきか、羅針盤を確認するのは、迷っているときです。迷いがなければ、確かめる必要はありません。
確かめるといってもマニュアルではありません。方位を示す羅針盤です。同時に原則や原点を示す機能も備えています。
優れた企業理念は、3層目の原則を参照するとき、自然と2層目の使命だけでなく、1層目の企業の存在目的まで再認識できる構造を持っています。
「このようなやり方」で進めていくのは、独自の目標を達成するためであり、我が社の目的に近づいていくためなのだと。
形骸化しやすい企業理念は、日常業務で参照する機会の多い3層目に即して判断しても、
行動しても、独自の目標達成に繋がっているのだと実感しにくく、企業の目的に近づいていくための原則だということも実感しにくい不良構造となっています。
壊れた羅針盤を誰も使わないのと同じで、形骸化していきます。
形骸化しにくいので浸透しやすい
企業理念には2種類しかありません。
形骸化しやすい企業理念と、形骸化しにくい企業理念の2種類です。
もちろん、羅針盤として機能し、社内外にポジティブに作用する優れた企業理念――
人材市場にアピールできる企業の大きな魅力にもなるでしょう――は、
形骸化しにくい企業理念のなかにしか存在しません。
企業理念に関する学術研究で、比較的多いのは「浸透」にまつわるものです。
困難なのは企業理念の浸透だと、多くの学術研究が示唆しています。その通りでしょう。
浸透させていくための種々の施策はもちろん大切です。
ちなみに松下幸之助さんは創業期から一貫して、自ら企業理念を体現していたそうです。
無理強いするのではなく、気づかせて、それとなく理解させていたと伝えられています。
形骸化しにくい企業理念は、浸透しやすい企業理念でもあるでしょう。
浸透しやすいのは、羅針盤としての機能性が高い企業理念です。
機能性を左右するのは構造なので、複雑な構造よりシンプルな構造のほうが望ましいです。
もちろん、理念一つひとつの表現を細かいところまで最適なものへと絞り込んでいく取捨選択も大切です。
浸透のための施策を打つ前に、まずは適切な構造と的確な表現を持った、羅針盤として機能し、
社内外にポジティブに作用する企業理念を言語化し、掲げてほしい。そう願ってやみません。
主要参考文献※
本テキストは、筆者(株式会社EDIMASS代表取締役・手嶋真彦)が拝読してきた文献からインスパイアされて執筆したものです。主要参考文献のほかにも多くの文献から学び、触発されてまいりましたことをここに記し、すべての文献執筆者に深い敬意と謝意を表します。
- 松下幸之助 『実践経営哲学』 PHP研究所 1978
- ケン・ブランチャード&ジェシー・リン・ストーナー 『ザ・ビジョン 新版 やる気を高め、結果を上げる「求心力」のつくり方』 田辺希久子訳 ダイヤモンド社 2020
- ホルスト・シュルツ&ディーン・メリル 『伝説の創業者が明かす リッツ・カールトン 最高の組織をゼロからつくる方法』 御立英史訳 ダイヤモンド社 2019
- 高 巖 「経営理念はパフォーマンスに影響を及ぼすか――経営理念の浸透に関する調査結果をもとに――」 『麗澤経済研究』 2010
- 田中雅子 「経営理念の内容表現が理念浸透に与える影響」 『同志社商学』 2013
- 山田幸三 「経営理念の浸透と創業経営者の役割」 『岡山大学経済学会雑誌』 1996
- 清水馨 「企業変革に果たす経営理念の役割」 『三田商学研究』 1996
- 横川雅人 「現代日本企業における経営理念の機能と理念浸透策」 『ビジネス&アカウンティングレビュー』 2010
- 久保克行・広田真一・宮島英昭 「日本企業のコントロールメカニズム 経営理念の役割」『企業と法創造』 2005
- 青木崇 「近江商人の流れを汲む伊藤忠商事の企業理念と企業の社会的責任活動」 『商大論集』 2016
- 廣川佳子・芳賀繁 「経営理念を反映した組織の価値観と個人の価値観の関連」 『日本心理学会大会発表論文集』 2015
- 柴田仁夫 「経営理念の浸透に関する先行研究の一考察」 『経済科学論究』 2013
- 飛田努 「日本企業の組織文化・経営理念と財務業績に関する実証分析――2000年代における日本的経営を考察する手がかりとして――」 『立命館経営学』 2010
- 宮原裕一 「業界トップの優良中堅・中小企業にみる企業理念――従業員重視の『利他の経営』――」 『国士舘大学経営論叢』2015
- 寺本明輝 「経営理念体現化に関する一考察――信頼の“場”の視点から――」 『日本経営診断学会年報』 2000
企業理念言語化の「効能」